新シルクロード#2 トルファン

NHKらしい、重厚なドキュメンタリー。
若い頃から、辺境に何故か強く激しく心がひかれる。
映像を見ただけで胸を鷲掴みにされ、感動で息が止まり、涙が溢れてくるのはどうしてなのか?
前世記憶のスイッチに触れるのかもしれない。


約20年前、大学の卒業旅行でシルクロード奥地を旅した。
勿論、トルファンにも訪れ、件のベゼクリク千仏堂も見学した。
保存状態が悪く、中の詳細は見学できなかったのだが、映像記憶ははっきりと焼きついている。
日本語モドキの柄(全く、意味は理解されていない)が刺繍されたセーターが各地で売られていた事を思い出す。
北京では「たのしい」と縦書きになっていたのだが、奥地に進むにつれ字形が崩れ、途中「ちつしい(ヤバイよ、ヤバイよ!)」となり、最後のトルファンでは、既に字では無くなっていた。(ああ、どこかに撮影した写真が残っていると思うが…)
情報の伝達の形を目の当たりにして(現在は知らないが、情報統制がある中国では、口コミ・噂が物凄く強いメディアなのだ)、興味深かった。
市場で、大鍋一杯にゆでられた羊の頭の山を見て、他のツアー客は皆、顔色を失っていたのだが、私一人「美味しそう…」と呟いていた。(既に、ここに片鱗が見える(笑))


前世紀、列強各国(ドイツ、ロシア、日本など)の探検家がこぞって、この崖の石窟寺院の壁から、巨大な美しい仏の図を剥ぎ取っていった事の是非は、はっきりとは言えない。
勿論あるべきところに、あるべき遺跡が、そのままの姿で残されるのが最善ではあるが、近年のバーミアンの巨大な白い御仏が爆破された例を引くまでも無く、特に宗教遺跡を保存するのは、大変に困難な事だからだ。
遺跡保存の難しさは、時間不足と資金不足にも寄るところが大きい。
以前、インタビューの仕事で文化財保存の専門家(当時の東京国立文化財研究所保存科学部の門倉武夫氏)の話を伺った事があるのだが、本当に地道な、気の遠くなるような時間がかかる。そして、遺跡の破損(自然・社会・人災様々な理由による)は、驚くほど早いのだ。


今回の目玉は、殆ど失われた壁画を、最新技術を使ってCGで再現した事。
史料を調べ、各国の博物館・文化財管理施設を訪ね、写真を撮り、当時の顔料を考察して色彩を決定し、パズルをつなぎ合わせ、永久に失われた部分は膨大な史料から推測して補い、壁全面を全て復活させたのだろう。
何と言う、気の遠くなるような作業!
何人の人が、どれくらいの時間をかけ、情熱的に、手探りで再構築作業をしたのかと思いを馳せただけで、感動で涙が出そうだ。
洋の東西を結んだ地点ならではの、様々な人種と宗教と生活が鮮やかに描かれた王家の寺の壁画。人々は仏に額づき、前世と現世と来世の幸福を祈ったのだろう。