陛下(追加)

陛下

陛下

この人の作品を読むと、知らないはずなのに懐かしい所に引っ張って行かれたような気になる。
セピア色の世界で、色気と死と静謐と狂気が交錯する。
哀しいというには幸せすぎ、あっけないと言えば鮮やかすぎる、血流の物語。


主人公の青年将校軍刀を見つめるシーンが、一番印象深い。
世に、鍛え抜かれた刀身を見つめると心が静まると言うが、彼は獣の心になるという。
獲物を狩る肉食獣と、狩られる弱き獣の両方に。


私は、どちらでもない。
心が静まるのでも心を奪われるのでもなく、その存在を感じ、組織を見つめ、考察する。
刀身に限らず、どうも私は見るもの、触れるものの内部に潜って、成り立ちを感じ取ることが多い。
つい、美しさを鑑賞せず、対峙するものの具体性を求めてしまう…良くも悪くも。いや、良い癖ではないだろう…


自分と登場人物を比較しながら、読んだ作品も久しぶり。
それだけ心にしみた、ということか。